【不足すると減額リスク】ものづくり補助金”実績報告”の必要書類と注意点
ものづくり補助金では、採択後に提出する「実績報告」がもっとも時間のかかる工程です。
必要書類は多く、そのうちの一つでも不足していると減額や不支給につながることがあります。
この記事では実績報告で必要となる書類の全体像と、不足しやすいポイントを整理し、最低限押さえておきたい注意点だけをまとめています。
- ものづくり補助金の実績報告で必要となる書類の全体像
- 不足しやすい書類と、減額・不支給につながる判断ポイント
- 発注〜納品〜支払いまでの証憑を揃える際の注意点
本記事を監修する専門家

多田 舞樹
東京大学 教養学部卒業。
PwC Advisory合同会社を経て、2018年に補助金コンサルティングや事業承継支援を手がける株式会社HighAdoptionを設立。これまでに500件を超える補助金の採択実績を持つ。
実績報告で提出する必要書類(全体像)
ものづくり補助金では、採択後に提出する実績報告が最も負担の大きい工程になります。
理由はシンプルで、提出書類の種類が多く、かつ書類同士の整合性まで求められるからです。
重要なのは、「書類を集めれば終わり」ではない点。
発注・契約・納品・支払い・設置・稼働という一連の流れが、証憑(しょうひょう)として矛盾なく説明できるかがチェックされます。
まずは、実績報告で必要となる書類の全体像を把握しておくことが、減額や不支給を防ぐ第一歩になります。
発注書・契約書
発注書や契約書は、いつ・誰が・何を・いくらで発注したのかを示す基本資料です。
交付決定日以降の日付であること、補助対象設備の内容が明確であることが必須です。
契約書がない場合でも、発注書や注文書で代替できるケースはありますが、内容が不十分だと補助対象になりません。
納品書・検収書
納品書・検収書は、設備やサービスが確実に納品・受領された証拠として扱われます。
日付・数量・品目が発注内容と一致しているか、検収書に押印や署名があるかが確認されます。
形式的な書類でも、記載漏れがあると再提出を求められることがあります。
請求書
請求書は、支払金額と対象経費を裏付ける重要な書類です。
補助対象外の経費が混在している場合、内訳が分かる形で整理されていないと減額の対象になります。
品目ごとの金額が明確になっているかが重要です。
支払記録(通帳写し・明細)
補助金では、実際に支払いが完了していることが厳しく確認されます。
通帳写しや振込依頼書など、第三者が見て支払い事実を確認できる資料が必要です。
現金払いは原則不可です。
設置・稼働写真
設備が実際に導入・稼働していることを示すため、写真の提出が求められます。
設置前後の写真、型番や設備全体が分かる写真など、客観的に確認できる内容が必要です。
写真不足は補正依頼の原因になりやすい項目です。
導入設備の仕様書・カタログ
導入設備が申請内容どおりであるかを確認するため、仕様書やカタログも提出対象になります。
型番・性能・仕様が申請書と一致しているかがチェックされます。
効果報告(付加価値額の算出)
実績報告では、事業の効果として付加価値額の算出が求められます。
営業利益・人件費・減価償却費などの数値が、会計データと整合しているかが重要です。
特に不足しやすい書類と注意点
実績報告では、書類の一部が不足しているだけでもトラブルになります。
ただし、不足=即採択取消ではありません。
まずは補正依頼が出され、追加提出の機会が与えられます。
それでも必要な証憑が揃わない場合、該当経費の減額や不支給につながる点には注意が必要です。
採択取消に至るのは、虚偽申請や不正が疑われる場合など、より重大なケースに限られます。
検収内容として必要な記載事項(検収書・納品書の扱い)
検収の内容は、必ずしも「検収書」という名称の書類に限定されるものではありません。
実務上は、納品書に検収日・数量・内容・確認者の押印等が記載されていれば、検収書の代替として認められるケースもあります。
重要なのは書類の名称ではなく、「いつ・何を・どの数量で納品し、検収したか」が客観的に確認できるかどうか です。
そのため、品目・数量・検収日・確認者(押印等)といった最低限の記載が揃っていない場合は、検収が行われた事実を証明できず、補正対象となることがあります。
支払い証憑は「実際の引落」が確認できるものが必要
見積書や請求書だけでは不十分で、実際に支払われた事実 を示す資料が必須。
振込日と金額が一致しているかも確認されます。
設置写真・稼働写真が不十分で再提出になるケース
写真が近すぎる、設備全体が分からないなどの理由で、再提出を求められるケースが多くあります。
工事付き設備は写真点数や書類が増える
工事を伴う設備は、工程写真や追加資料が必要になるため、書類準備の負担が大きくなります。
必要書類を揃える際の最低限の注意点
実績報告でつまずく企業の多くは、「どの書類が必要か」以前に、書類の揃え方・管理の仕方でミスをしています。
実務では、個々の書類の正しさだけでなく、発注から支払い、設置・稼働までの流れが一貫して説明できるかが重視されます。
そのため、書類を後から集めるのではなく、補助事業の進行と同時に「実績報告を前提とした管理」を行うことが重要。
ここでは、実績報告をスムーズに進めるために、最低限押さえておきたい実務上の注意点を整理します。
発注〜納品〜支払いの流れを必ず書類で残す
実績報告では、「発注した」「納品された」「支払った」という事実を、書類で順番どおりに確認できることが求められます。
口頭のやり取りやメールだけでは証拠にならず、発注書・納品書・請求書・支払記録が日付・金額・内容の面で整合しているかがチェックされます。
途中の書類が抜けていると、全体の流れが証明できず、補正や減額につながることがあります。
写真は「設置状況がわかるもの」を撮っておく
設置・稼働写真は、後から用意しようとしても撮れないケースが多い書類です。
- 納品時の写真
- 設備全体が写っている写真
- 型番や設置場所が分かる写真
など、第三者が見て状況を判断できる写真 を複数残しておくことが重要です。
写真が不十分だと、「本当に導入されたのか」が確認できず、再提出や追加撮影を求められる原因になります。
複数設備を導入する場合は書類の紐づけを明確に
複数の設備を同時に導入する場合、「どの設備が、どの請求書・支払記録に対応しているか」が分からなくなるケースがよくあります。
実績報告では、設備ごとに書類が一対一で対応していることが重要です。
一覧表を作るなどして、第三者が見ても迷わない整理を心がける必要があります。
書類整理に不安がある場合は支援を検討しても良い
実績報告は、申請書作成よりも実務負担が大きいと感じる企業も少なくありません。
「途中で不安になった」「書類の揃え方が分からない」という場合は、実績報告のみ専門家の支援を受けるという選択肢もあります。
無理に自社だけで対応しようとせず、減額・不支給リスクを避けるための判断として、支援を検討するのも一つの方法です。
まとめ:実績報告は“必要書類が揃っているか”がすべて
ものづくり補助金の実績報告で最も重要なのは、必要書類が過不足なく、整合性をもって揃っているかという一点に尽きます。
書類に不足や不備があった場合でも、すぐに採択が取り消されるわけではありません。
多くの場合は補正依頼が出され、追加提出の機会が与えられます。
ただし、補正後も必要な証憑が揃わない場合は、該当経費の減額や不支給につながる可能性があります。
発注から納品、支払い、設置・稼働までの流れを第三者が見ても説明できる状態にしておくこと。
これが、実績報告をスムーズに終わらせるための最大のポイントです。
