製造業の「新事業進出補助金」採択事例を徹底分析|実際の採択結果から見る共通点と成功要因

「新事業進出補助金」は、中小企業等が既存事業と異なる事業への前向きな挑戦として、新市場・高付加価値事業への進出を後押しする制度です。

製造業では、自社の技術や設備を活かしつつ、新製品の開発や新分野への展開を目指すケースが多い一方で、“どこまでが新事業とみなされるのか”を示すことが難しいという特徴があります。

本記事では採択結果から、実際に採択された製造業の事例を紹介し、採択企業がどのように「新事業性」を示していたのか、その共通点や考え方を解説します。

なお、“新事業”とみなされるためには、製品・サービスの新規性、市場の新規性、そして新事業売上構成比(売上高の10%または付加価値の15%以上)といった要件を満たす必要があります。

※参照元:新規事業への進出により、企業の成長・拡大を図る中小企業の皆様へ 中小企業新事業進出補助金

この記事を読めばわかること
  • 製造業で実際に採択された「新事業進出補助金」の最新事例
  • 採択企業がどのように“新事業性”を具体的に示していたのか
  • 採択結果から見えてきた製造業特有の共通点と成功パターン
  • 今後の申請で意識すべきポイントと計画づくりのヒント

本記事を監修する専門家

多田 舞樹
東京大学 教養学部卒業。
PwC Advisory合同会社を経て、2018年に補助金コンサルティングや事業承継支援を手がける株式会社HighAdoptionを設立。これまでに500件を超える補助金の採択実績を持つ。

テスト
目次

【第1回】製造業の「新事業進出補助金」採択例

  • 公募期間:2025/4/22(火)~7/15(火)
  • 申請受付開始:2025/6/17(火)
  • 採択結果発表:2025/10/1(水)
  • 交付申請開始:2025/12/1(月)

事例①高精度複合機導入による技術革新と飛翔体製造という新分野進出

事業者名有限会社常陸機械製作所
所在地東京都台東区
会社HPhttps://hitachikikai.co.jp/

図面に基づく難易度の高いマシニング加工を中心に、航空宇宙部品・レース用部品などの試作品製造を手がける企業。

新事業進出補助金に採択され、補助金を活用して、飛翔体製造という宇宙・防衛分野へ挑戦します。

事例②印刷ノウハウ伝送 × 分散最適化DXプラットフォーム

事業者名株式会社グーフ
所在地東京都品川区
会社HPhttps://www.goof.buzz/ 

印刷とデジタル技術を融合し、高付加価値なプリントメディアのプラットフォームサービスを提供する企業。

新事業進出補助金に採択され、補助金を活用して、印刷ノウハウを応用したクラウド型DXプラットフォームを開発します。

事例③装甲ドーザ用減速機事業への進出

事業者名株式会社大和製作所
所在地東京都大田区
会社HPhttps://yamatoworks.co.jp/ 

歯車減速機や産業用機械・半導体製造装置の設計・製造を手がける企業。

新事業進出補助金に採択され、補助金を活用して、防衛・特殊車両向けの高耐久減速機の製造に進出します。

事例④半導体関連装置用大型架台の高精度加工に挑戦する新事業進出計画

事業者名八栄工業株式会社
所在地東京都大田区
会社HPhttps://yaei-id.com/ 

大型製缶・溶接加工および大型機械加工を中心に、金属構造部品の製造を手がける企業。

新事業進出補助金に採択され、補助金を活用して、半導体製造装置向けの大型架台加工に取り組みます。

事例⑤関税影響の少ない軽自動車部品分野への進出

事業者名株式会社たかふね工業
所在地愛知県名古屋市中川区
会社HPhttps://www.takafune.co.jp/ 

自動車部品の製造を中心に、板金・切削などの金属加工および建築・保安資材の販売を手がけ、医療機器分野へも展開している企業。

新事業進出補助金に採択され、補助金を活用して、軽自動車部品の新製造ライン構築を計画しています。

事例⑥東南アジア向け上級鉄スクラップ製造・輸出事業

事業者名大阪鋼業株式会社
所在地大阪府大阪市港区
会社HPhttps://osaka-kogyo.jp/ 

鉄鋼製品を製造・販売する企業。

鉄くず・非鉄金属スクラップの買取・処理・販売を手掛けるリサイクル事業者。

新事業進出補助金に採択され、補助金を活用して、高品質な再生鉄スクラップの製造・輸出に取り組みます。

※参照元:採択結果 中小企業新事業進出補助金

なぜこれらの製造業の事業計画が採択されたのか

今回紹介した事例は、製造業における「新事業進出補助金」の採択案件の一部です。

採択企業に共通しているのは、既存の製造技術を活かしながら、新しい市場や用途に挑戦している点

たとえば、

  • 印刷技術を応用してクラウド型プラットフォームを開発
  • 金属加工技術を半導体や防衛といった成長分野へ展開

など、自社の得意分野を新しい顧客層・事業領域へ広げている事例が多く見られます。

新事業進出補助金の評価では、“革新性”よりも「既存事業との違い(新規性)を具体的に説明できているか」が重視されます。

製造業は既存設備やラインを一部活用できるため、「単なる改良」と見なされるリスクがあります。

そのため、新市場での課題をどう解決するのか、どんな新しい価値を提供するのかを明確に描くことが、採択の決め手となっています。

採択されやすい製造業の共通傾向は

採択事例を見ると、多くの企業が既存の生産技術を新しい分野に応用しています。

単なる設備更新ではなく、

  • 製造 × IT(DX・SaaS)
  • 金属加工 × 半導体・防衛
  • 自動車部品 × 新素材・新市場
  • リサイクル × 輸出・環境

といった形で、他分野との掛け合わせによる新事業化が特徴。

共通しているのは、技術的には連続しているが、市場は非連続という点です。

自社の強みを活かしつつも、まったく異なる市場課題を解決しようとする構想が評価されています。

また、国内需要減や関税影響など、業界構造の変化に対応した市場転換型の取り組みも目立ちます。

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製造業の採択事例を参考に、自社でも新事業進出補助金の申請を前向きに検討しよう

製造業は高い技術力を持ちながらも、「どこまでが新事業と見なされるか」が難しい業種です。

採択事例を参考に、既存技術をどの市場にどう展開するかを整理することで、採択の方向性が見えてきます。

「新事業進出補助金」は、既存の生産体制を活かしつつ新しい市場に挑戦する絶好の機会です。

早い段階で専門家に相談し、新市場性・事業性・波及効果を明確にした計画を立てることが、成功への第一歩となります。

※なお、認定支援機関などの助言を受けることは可能ですが、申請書類の作成は必ず申請者自身で行う必要があります。

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この記事を書いた人

東京大学大学院 工学系研究科に所属。
ものづくり補助金、東京・千葉の設備投資向け補助金など支援実績多数。これまでに支援した企業の累計採択額は1.5億円を超え、採択率95%という高い成果を上げている。

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