【採択結果から具体例あり】新事業進出補助金の「補助対象経費」に当てはまるものとは
新事業進出補助金を申請する際、多くの企業が最初につまずくのが「補助対象経費の範囲」です。
応募要項には品目が列挙されていますが、実際の現場では「どこまでが対象になるのか」「同じ設備でも対象外になるケース」が頻繁に発生します。
本記事では、業種別(製造業・建設業・卸売業・情報通信業)に補助対象となりやすい経費の具体例を示しながら、申請時に注意すべきポイントを整理します。
支援会社に依頼する前に、経費の考え方を正しく理解することで、採択率の高い事業計画を立てることができます。
- 新事業進出補助金の経費区分を整理
- 主要経費(機械装置・建物費)の傾向
- 採択事例から見える経費の使われ方
- 事業計画と経費区分を整合させる方法
本記事を監修する専門家

池上 翔大
補助金申請支援を行う会社で補助金事業部統括マネージャーを勤める。
年間100件以上の事業者に対し、補助金の採択へ導いている。
新事業進出補助金の「補助対象経費」は9種類
新事業進出補助金の補助対象経費は全部で9種類に分類されます。
主に「機械装置・システム構築費」と「建物費」が中心であり、全体の申請件数の大半を占めます。
製造業や建設業では、これらの経費をどう組み合わせるかで採択可否が変わるケースも多く、計画段階から精査が必要です。
他の経費(専門家経費・外注費・技術導入費など)は補完的な位置づけであり、事業内容に応じてバランスを取ることが採択の鍵となります。
機械装置・システム構築費又は建物費のいずれかは必須
新事業進出補助金を申請するには、「機械装置・システム構築費」または「建物費」のどちらかを必ず含める必要があります。
どちらも新たな事業に直接関わる設備投資であることが求められ、単なる既存設備の更新や修繕は対象外です。
特に製造業では、導入機器の生産性向上効果を具体的に説明できるかがポイント。
建物費を含む場合は、施設の新設や改修が新事業の展開にどう寄与するかを明示することが採択率を高めます。
※補助対象経費は9種類あるが、全業種で建設費・機械装置費がメインの対象経費となり、それ以外は補完的に計上します。
【補助経費別】採択結果「事業計画名」から主な採択例をみる
中小企業庁が公表している第1回の採択結果から、補助対象経費ごとに主な事業計画名を10件前後ピックアップしました。
本一覧は、あくまで事業計画名から「どのような経費区分で採択されているのか」を予想したものになります。
事業計画名からも概要は読み取れますが、詳細な設備内容や経費の内訳までは公開されていません。
特に「機械装置・システム構築費」や「建物費」は、事業名から新工場の新設や生産設備導入などが想定しやすい一方で、それ以外の経費(技術導入費・外注費・専門家経費など)は、事業計画名だけではどのような補助対象経費に該当するのか判断が難しいのが実情です。
したがって、ここで紹介する採択例は傾向をつかむためのものであり、実際の経費区分を特定するものではありません。
以下では、主要な経費である「機械装置・システム構築費」と「建物費」の具体的な内容が、事業計画名から推測できる採択事例を紹介します。
※参照元:新事業進出補助金 第1回公募 採択案件一覧、新事業進出補助金(第1回公募)の補助金交付候補者を採択しました(中小企業庁)
機械装置・システム構築費
事業計画名 | 主たる業種 |
---|---|
CNCを活用した宿泊施設向け造作家具建具の製造取付工事事業 | 製造業 |
ダイヤモンドバンドソー導入による大口径レンズ加工事業進出 | 製造業 |
自社工場の新設によるプレキャストコンクリート(PC)製造事業 | 製造業 |
ATC付新型ベンダーによるデジタル制御曲げの板金量産工程開発 | 製造業 |
ポンプ及びロケットエンジン部品内部の内径積層物研磨事業に進出 | 製造業 |
ベリリウム銅合金の超大型射出成形用金型部品製造への新規挑戦 | 製造業 |
次世代電池向けラボ用フィルムコーティングシステムの開発事業化 | 製造業 |
中小規模建設事業者向け環境配慮型再生砕石の製造事業 | 建設業 |
オールインワンAI画像検査装置及びAI作成クラウドサービス | 情報通信業 |
製薬企業向け臨床統計情報閲覧サービスの開発 | 情報通信業 |
機械装置・システム構築費では、製造業者の採択が多く感じました。
「CNCを活用した造作家具製造事業」「次世代電池向けコーティングシステム開発」など、生産ラインや加工工程の革新を伴う投資が多く見られます。
AI検査装置やロボット導入など、デジタル要素を取り入れた申請も増加傾向です。
単なる機器導入ではなく、「高付加価値化」「省人化・効率化」など、目的を明確にした記載が採択の決め手になります。
建物費
事業計画名 | 主たる業種 |
---|---|
自社工場の新設によるプレキャストコンクリート(PC)製造事業 | 製造業 |
清流に面した非日常感を味わえる源泉付オートキャンプ場の運営 | 建設業 |
業歴65年の板金工場が超大口径マシンハッチ製造へ新事業進出 | 製造業 |
造園技術を活用したペットと泊まれる一棟貸しの宿 | 建設業 |
顧客の理想の一台をかたちにする自動車整備工場の新設 | 建設業 |
空き家問題を解決する地方移住促進のための宿泊体験型不動産業 | 建設業 |
有害鳥獣な野生鳥獣を有効活用するジビエ処理加工施設事業 | 宿泊業、飲食サービス業 |
空き家問題対策に貢献する古民家改装による撮影スタジオ運営事業 | 宿泊業、飲食サービス業 |
パデルコート設置を中核とした「加瀬のスポーツタウン」新設事業 | 不動産業、物品賃貸業 |
地域とつながる、日本ワイン文化の滞在拠点 | 不動産業、物品賃貸業 |
建物費が採択された事例は、「新事業の拠点整備」「新工場・施設の新設」「地域資源を活かした観光・宿泊事業」などがありました。
たとえば「ペットと泊まれる宿」や「スポーツタウン新設」など、建物そのものが新市場創出の中心となる事業の採択事例が複数あります。
ただし、単なるリフォームや用途変更では採択されにくいため、建物の改修・新築がどのように新たな市場開拓に直結するのかを定量的に説明する必要があります。
運搬費
運搬費は、運搬料、宅配・郵送料等に要する経費です。
なお、購入する機械装置等の運搬料については、機械装置・システム費に含めますので注意してください。
技術導入費
技術導入費は、特許技術や生産ノウハウのライセンス取得などに使われます。
たとえば、新素材加工の技術導入や海外メーカーとの技術提携に伴う知的財産権等の取得・導入が該当します。
製造業では新技術導入による工程短縮や品質向上を狙った申請が多く、単なる外注委託ではなく「知的財産権等の導入」にあたる内容であることが条件です。
知的財産権等関連経費
新たに開発した製品・技術に対して特許出願や商標登録を行う場合、弁理士の手続代行費用等が活用できます。
外注費
製品開発や設計、試作などを外部企業へ委託する場合に該当します。
製造業では試作品製造や3D設計の一部委託などが典型例です。
曖昧な業務委託契約は補助対象外となる可能性があります。
専門家経費
事業計画の作成支援や技術指導、販路開拓支援などを専門家に依頼する際に活用できます。
中小企業診断士や補助金支援コンサルタントなどの専門家報酬が該当します。
クラウドサービス利用費
クラウド型の業務管理・生産管理システムの導入に関する経費です。
汎用的なサブスクリプション利用料は対象外であり、「専ら補助事業のために利用するクラウドサービスやWEBプラットフォーム等の利用費」に限定されます。
広告宣伝・販売促進費
新事業の製品やサービスを広めるためのPR活動費にあたります。
具体的にはパンフレット制作、展示会出展、Web広告など。
製造業の場合は、新製品展示会への出展費やオンライン販路構築費が該当します。
単なる既存製品の販促ではなく、新市場でのブランド確立に向けた活動であることを示す必要があります。
まとめ
新事業進出補助金では、9種類の補助対象経費が設定されており、今回は採択結果の事業計画名からどういった経費が採択されているのかをみてみました。
「機械装置・システム構築費」または「建物費」のどちらかを必ず含める必要がある経費なので、これらが大半です。
その他の経費(外注費、専門家経費、技術導入費など)は、採択結果「事業計画名」だけでは内容が見えにくく、実際にどのような形で使われているかを把握するのは難しい部分があります。
採択事例の一覧はあくまで傾向をつかむためのものであり、自社の申請に活かす際は、公募要領や採択事例の分析を踏まえた上で、目的と経費の対応関係を明確に整理することが重要です。
補助金を有効に活用するためには、「どの経費を軸に新事業性を説明するか」「どの支出が対象になるのか」を早い段階で見極め、支援機関や専門家と相談しながら事業計画を具体化していくことが成功の近道となります。