建設業は現場効率化に最適!省力化投資補助金(一般型)申請のポイントと注意点
建設業界では、慢性的な人手不足や長時間労働、施工現場の安全確保といった課題が深刻化しています。
これらを解決する切り札の一つとして注目されているのが、省力化投資補助金(一般型)です。
建設業は建機やロボット、センサーなどの設備やシステムなどを導入する機会が多いこともあり、業種別の採択件数が第1回では11.3%、第2回では12.4%と、製造業に次ぐ2位という結果になっています。
これから採択を目指す方のために、建設業が省力化投資補助金を活用するべき理由やポイント、注意点を解説いたします。
- 建設業が省力化投資補助金(一般型)と相性抜群といえる理由
- 採択結果データから見る建設業の採択件数と傾向
- ICT建機・BIM/CIMなど最新システム導入の採択事例
- 現場効率化や人手不足対策につながる具体的な設備活用例
- 建設業が申請する際に注意すべき補助率・採算性・法令遵守のポイント
本記事を監修する専門家

多田 舞樹
東京大学 教養学部卒業。
PwC Advisory合同会社を経て、2018年に補助金コンサルティングや事業承継支援を手がける株式会社HighAdoptionを設立。これまでに500件を超える補助金の採択実績を持つ。
建設業は現場効率化に直結するから、省力化投資補助金と相性抜群!
省力化投資補助金(一般型)を申請する際、機械装置・システム構築費を必須経費として含める必要があります。
建設業が抱える現場課題は、建設機械やロボット、センサーなどの導入で改善が見込めるケースが多く、省力化投資補助金との相性が良い業界といえます。
省力化投資補助金の活用で、建設業が期待できる生産性アップや賃上げの効果、設備、システムとの相性の良さ、審査を有利に進められる理由をみてみましょう。
施工現場の人手不足・安全対策に効果的
建設現場では、高齢化によるベテラン技能者の不足や、安全性向上につながる危険作業の代替案などが課題になっています。
省力化投資補助金は、これらの課題を解決できる設備、システムの導入に活用できるケースが多く、これまでにさまざまな導入事例があります。
人手不足対策としては、以下の採択事例があります。
事業者名 | 事業計画名 | 回 |
---|---|---|
株式会社半澤組 | 省力化設備導入により、高付加価値事業へ人材を集約する計画 | 第1回 |
山陽鋼機建設株式会社 | 複合加工機の初導入によるリソースの再分配と働き方改革 | 第1回 |
どちらの事例も設備導入をきっかけに、別の部分へ人材を活用する目的で実施されています。
安全性対策を主目的とした設備導入は対象外ですが、省力化・自動化の結果として副次的に安全性向上につながった事例があります。
事業者名 | 事業計画名 | 回 |
---|---|---|
株式会社しげ組 | 高精度切断機×フォークリフトで生産性と労働環境の向上 | 第1回 |
株式会社小黒組 | 拡大するモジュール建築市場の獲得に向けた鉄筋切断加工の省力化 | 第1回 |
内田鉄工建設株式会社 | 自動化、高効率化による構造物の大型化需要への対応 | 第1回 |
ICT建機やBIM/CIM導入が対象になりやすい
建設業は企業の経営強化や集客、省人化などの目的で、ICT建機やBIM/CIM導入を検討するケースが多くあります。
どのようなアイデアがあるのか、実際の採択事例をみてみましょう。
事業者名 | 事業計画名 | 回 |
---|---|---|
株式会社齋藤商店 | 民間(戸建住宅造成工事)建築土木工事業者による新たな受注獲得のためのICT工法の実現 | 第1回 |
分田建設株式会社 | 生産性向上と経営体制改善に繋がるICT油圧ショベルの導入 | 1回目 |
株式会社二十一世紀 | 情報通信技術を活用した建設工事の適正施工を図るICT建機の導入 | 第1回 |
八田建設株式会社 | 測量・解析業務のICT化による省力化と施工体制強化 | 第2回 |
株式会社大伸建設 | 省人化と施工時間短縮を実現するICT施工体制の強化事業 | 第2回 |
株式会社金岡光輝園 | CIM導入による建設土木現場の計画管理の飛躍的な生産性向上 | 第2回 |
この他にも、ICT建機導入による生産性向上や省力化、工事の効率化などの事例が広く採択されています。
ICT建機やBIM/CIM導入によって、労働生産性の年平均成長率4%以上増加、都道府県における最低賃金+30円以上の水準といった省力化投資補助金で定められた基本要件を満たせる場合は、補助対象になる可能性が高いでしょう。
現場の生産性向上が審査で評価されやすい
省力化補助金は、中小企業等の付加価値額や生産性向上を図り、賃上げにつなげることを目的にスタートした制度です。
先ほど紹介した採択事例のような建機や設備・システムを導入すると、これまで人の手で進めていた作業を機械に任せたり、建機の力でスピード化できたりといった未来につながり、生産性向上が期待できます。
このような、企業の付加価値アップや賃上げに直結している事業は、必要な投資だと認められる可能性があります。
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建設業が申請する際のポイント
建設業が省力化投資補助金(一般型)を活用するなら、採択につながりやすい書類作成や設備・システムの選定が欠かせません。
どのような点に注意して、申請作業を進めていくべきなのか、ポイントを解説いたします。
現場効率化の効果を数値で示す
省力化投資補助金の事業計画書を作成する際、「会社全体の事業計画の数値目標についてはすべての事業者に申請いただきます」という決まりがあります。
具体的には、以下の指定様式に沿った計画の作成・提出が必要です。
【その3:会社全体の事業計画】 ※指定様式あり
①会社全体の事業計画(表)における「労働生産性」や「給与支給総額」「1人当たり給与支給総額」等の算出については、算出根拠を記載もしくは別途提出してください。※上記各数値は、その1②を踏まえて、内容がわかるように作成してください。
②「省力化指数」や「投資回収期間」「付加価値額」「オーダーメイド設備」に関する計画も同様です。
③本事業計画(表)で示された数値は、補助事業終了後も、毎年度の効果報告等において伸び率の達成状況の確認を行います。
公募要項ではその他にも、「補助事業の具体的取組内容と会社全体の事業計画の目標数値との整合性、財務計画(資金調達と今後の数値計画)」など、必要に応じて数値の入力が求められています。
公式サイトからダウンロードできる事業計画書の事業形式は、省力化計算シート、省力化業務プロセス図、投資回収期間計算シートなど、数値を具体的に計算・入力できるように整えられています。
※参照元:応募申請時に提出が必要な様式 資料ダウンロード(一般型)中小企業省力化投資補助金
計画書の様式や入力方法を確認しながら、効率化のための取り組みを数値で表しましょう。
導入設備・システムの必要性を明確にする
省力化投資補助金の事業概要には、制度の対象が「生産・業務プロセス、サービス提供方法の省力化を行う者」と書かれています。
この点からも、建設業に導入したい設備が、生産・業務プロセス、サービス提供方法の省力化になぜつながるのか、書面に含めておくと申請の理由が分かりやすく伝わります。
これまでの採択事例でも、3次元測量器や建設資材の自動包装システム、次世代足場の導入など、さまざまなアイデアで省力化を実施したケースが報告されています。
その他にも、株式会社木村建設は「AI活用相見積作成・顧客対応自動化による下請け脱却計画」という内容で採択されています。
建設業というと、現場で使用する設備がまっ先に浮かびがちですが、必要性を明確にできれば、事務作業や顧客対応などのオフィス業務にも活用可能です。
現場特有の課題解決に直結することを強調する
省力化投資補助金(一般型)には、「中小企業等の個別の現場の設備や事業内容等に合わせた設備導入・システム構築等の多様な省力化投資を促進する」という事業概要があります。
※引用元:中小企業省力化投資補助事業 中小企業庁
例として、業務プロセスの自動化・高度化やロボット生産プロセスの改善、デジタルトランスフォーメーション(DX)が挙げられていますが、前述した過去の採択事例のとおり、事業計画や導入設備の内容はさまざまです。
申請を検討する際は、自社の現場ではどのような課題があるのか。
足りていない設備はなにか、という点を分析の上、事業に適した省力化投資策を決定すると事業の目的と合致しやすく、採択につながる可能性を高められます。
【建設業向け】省力化投資補助金申請時の注意点
建設業が省力化投資補助金(一般型)を申請する場合、設備投資額と採算性の問題、その他補助金との混同、ルールの遵守など注意するべき点が多くあります。
建設業が気をつけるべき部分を事前にチェックしておきましょう。
補助事業実施期間と報告期限に注意
補助事業の実施には期限が定められています。
採択発表日から20か月以内、かつ交付決定から18か月以内に完了する必要があり、さらに実績報告は完了日から30日以内または期限日のいずれか早い日までに提出しなければなりません。
建設業は工期や納期が遅れるリスクがあるため、余裕をもったスケジュール管理が欠かせません。
補助率と補助上限額を理解して計画を立てる
補助率は、中小企業者の場合1/2、小規模事業者・再生事業者の場合2/3となります。
ただし補助金額が1,500万円を超える部分については1/3に下がります。
また、従業員数に応じて補助上限額が定められており、750万円から8,000万円(特例で最大1億円)までとなります。
これらを踏まえて導入計画を立てることが重要です。
設備投資額と採算性のバランスを取る
省力化投資補助金の申請で提出する書類には、「事業計画上の投資回収期間を根拠資料とともに提出」「3~5年の事業計画期間内に、補助事業において、設備投資前と比較して付加価値額が増加する事業計画を策定」といった要件があります。
※引用元:2-2 その他要件 中小企業省力化投資補助事業(一般型)応募申請の手引き(第3回公募)
資料には「投資額/(削減工数×人件費単価+増加した付加価値額)」で、投資回収期間を計算するように書かれています。
計算式を活用して、設備投資によってどのような付加価値(採算性)があるのか、数値を申請しましょう。
その他の補助金・助成金制度との混同に注意
建設業が使える補助金制度、助成金制度は省力化投資補助金以外にもあります。
中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上を目的として、業務効率化やDX等に向けたITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援する「IT導入補助金」。
新市場進出(新分野展開、業態転換)、事業・業種転換、事業再編、国内回帰、地域サプライチェーン維持・強靱化又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築を支援する「事業再構築補助金」の後継としての「中小企業新事業進出補助金」。
若年者及び女性に魅力ある職場づくりや作業員宿舎等設置、建設キャリアアップシステム等活用促進などを支援する「人材確保等支援助成金」。
その他にも活用できる補助金、助成金事業がたくさんありますが、制度によって支援目的が異なります。
自社が導入したい設備やシステム、目指したい未来とそれぞれの概要がマッチしているのか、事前にたしかめた上で最善の補助金、助成金制度を選択すると、採択の可能性が高まるでしょう。
労働安全基準や法令遵守の観点を盛り込む
省力化投資補助金の応募申請の手引きには、補助対象外の事業として「法令に違反する及び法令に違反する恐れがある事業並びに消費者保護の観点から不適切であると認められる事業」が挙げられています。
※引用元:1-6 補助対象外となる事業 中小企業省力化投資補助事業(一般型)応募申請の手引き(第3回公募)
建設業の場合は、「労働安全衛生法」「建設業労働災害防止規程」「働き方改革」などの労働安全基準に配慮して導入する設備の選定、書類作成を進めると、法令を守った申請だと認められやすいでしょう。
まとめ|建設業の現場課題を解決する投資で採択を目指そう
建設業は、現場課題を解決できる投資が、省力化投資補助金の対象になりやすい業界です。
現場で抱えている人手不足などの悩み、古い設備を使い続けた結果、考えられる問題などを考慮して、企業の成長や従業員の賃上げにつながる事業計画を立ててみてください。
省力化投資の効果を数値で示す、設備やシステムの必要性を明確に記す、法令を遵守する、といった点にも配慮しながら、申請作業を進めましょう。