運送業はコスト削減に直結!省力化投資補助金(一般型)申請のポイントと注意点
運送業は燃料費の高騰や働き方改革による人件費増、ドライバー不足、車両管理といった課題を抱えている業界です。
このような問題を改善するために、活用できる制度の一つが「省力化投資補助金(一般型)」です。
ただし、本補助金は業務の効率化やコスト削減が期待できる一方で、運送業では必須経費である機械装置・システム構築費の導入が難しいという問題があります。
今回は、なぜ運送業は申請が困難なのか、申請する場合に気をつけたいポイントや注意点ついて、詳しく解説いたします。
- 運送業が省力化投資補助金(一般型)を活用しにくい理由
- 車両購入が対象外となる補助金の範囲と活用の限界
- 運送業が申請時に押さえるべきポイント
本記事を監修する専門家

多田 舞樹
東京大学 教養学部卒業。
PwC Advisory合同会社を経て、2018年に補助金コンサルティングや事業承継支援を手がける株式会社HighAdoptionを設立。これまでに500件を超える補助金の採択実績を持つ。
運送業は設備導入が限定的なため、省力化投資補助金の活用は難しい面もある
省力化投資補助金(一般型)制度は、「中小企業等の付加価値額や生産性向上を図り、賃上げにつなげる」という目的があります。
※参照元:事業目的 中小企業省力化投資補助金
また前述したとおり、機械装置・システム構築費を必須経費として含める必要があります。
多くの企業が補助金を活用した省力化を進めている現在ですが、運送業の採択率は高くありません(第1回0.9%、第2回1.4%)。
その背景には、制度の必須経費を満たす設備投資機会が少ない、という原因が考えられます。
製造業の場合、工場で使用する新しい機械やロボット、AIやシステムの導入など、さまざまな投資を検討できます。
ですが運送業の仕事の場合、大きな機械は持たず、トラックなどの車両を利用して人の力で物を運ぶ業務がメインです。
付加価値額や生産性向上、賃上げにつながる省力化施策が難しいことから、申請にいたらない企業が多いと推察されます。
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車両更新費用は対象外で活用範囲が狭い
運送業が投資を検討したい部分の一つに、車両の更新(購入)があります。
しかし省力化投資補助金(一般型)の応募の手引きでは、自動車等車両が補助対象外の経費に含まれています。
※参照元:5-4 補助対象外となる経費 応募申請の手引き(第3回公募)中小企業省力化投資補助事業(一般型)
そのため、燃費の良い車輌を購入して、企業の成長を促しながら賃上げにつなげる、といった目的の申請はできません。
もっとも必要な車両が補助対象にならないため、運送業を営む企業にとっては、活用の幅が狭いと感じられる制度になっています。
運行管理システムや燃費改善設備は対象になるが投資規模が小さい
運送業が省力化投資補助金を活用するなら、運行管理・車両管理システムの導入や見直し、燃費改善設備を取り入れる、という方法が考えられます。
その他にも、過去にはこのような導入事例がありました。
- 貨物軽自動車運送業バックオフィスのAI・DX化による省力化と体制強化(エージェント物流株式会社・第1回)
- 共通システム構築による事務作業の省力化および増収計画(道勝運輸株式会社・第2回)
- ⽼舗運送会社が手書きをやめてデジタルへ。紙ゼロプロジェクト(正光運輸株式会社・第2回)
※参照元:中小企業省力化投資補助金(一般型) 第1回公募 採択決定事業者一覧,第2回公募 採択決定事業者一覧
これらの例のように、オフィス内のIT化やDX化がまだ進んでいない場合は、省力化投資補助金を活用したシステム導入で事務や経理作業を省力化するというアイデアもあります。
運送業が申請する際のポイント
運送業者がこれから申請する場合、どのような点に注意して進めていくべきなのか、ポイントをみてみましょう。
燃費改善・人件費削減効果を数値で示す
省力化投資補助金の審査では、以下の基本要件を満たす計画を数値で提出します。
- 基本要件1|労働生産性の向上
- 基本要件2|給与支給総額又は1人当たり給与支給総額の増加
- 基本要件3|最低賃金の引き上げ
- 基本要件4|次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画の公表(従業員21名以上の事業者のみ)
上記の要件に基づき3~5年の事業計画を作成し、申請システムに入力する手続きが必要です。
運送業の場合、燃費改善や人件費削減といった部分を数値化すると、審査の際にどのような変化が期待できるのか、具体的に示せます。
「運行システム導入によって運行効率が5%向上し、年間○リットルの燃料削減につながる」
「管理システムで点呼・報告業務の時間を月○時間削減でき、人件費を年間○万円削減できる」
といった形で、〇〇をすると数値がこのように変化する、という内容を事業計画に含めてみましょう。
導入システムや車両更新の必要性を明確化
運送業が省力化投資補助金の採択を目指すなら、事業計画の中で導入システムや燃費改善設備の必要性を明確にしましょう。
「燃料費が高騰しているため、燃費向上装置を導入して、走行時燃費の○%改善が予測される」
「燃費を抑えるために車輌へエコドライブを支援するシステムを導入して、○%の燃費向上を目指す」
「人材不足を補うために、自動配車システムを取り入れて作業を効率化、省力化できた部分で賃金を向上させる」
事務員やドライバーの負担になっている部分、人の手では時間がかかりすぎる部分はないか。
それを補える方法や設備はないか、という点を考えていくと必要性を具体的に説明できる設備やシステム選定につながるでしょう。
運行管理・労務管理など現場課題とのつながりを強調
省力化投資補助金(一般型)には、人手不足の解消に向けて、オーダーメイド設備等の導入等を行う事業計画を策定すること、という要件があります。
オーダーメイド設備とは、特定の用途や目的に合わせて、一つひとつ設計・製作される設備のことで、導入する企業の課題に合わせてカスタマイズされているのが特徴です。
運送業界の場合、ドライバー不足や人件費の高騰といった課題が考えられます。
省力化投資補助金を活用して人手不足改善を目指す場合、導入したい運行管理・車両管理、労務管理などのシステムが現場の課題と直結している・つながっている、という部分を強調すると、必要な投資だと認められる可能性が高まります。
【運送業向け】省力化投資補助金申請時の注意点
運送業が省力化投資補助金を申請する際に、覚えておくべき注意点があります。
対象範囲やその他補助金の内容、書類作成のポイントなどを、事前にチェックしておきましょう。
車両更新費用と補助金対象範囲の違いに注意
前述した通り、運送業の車両更新(購入)は省力化投資補助金の対象に含まれません。
補助対象になるのは、機械装置や設備、システム、人材不足解消や業務効率化につながる機器などです。
運行管理システムや車両管理システム、燃費を改善できる設備、オフィスのIT・DX化など、車両購入以外の部分で活用を検討しましょう。
法令遵守や安全対策に関する項目を落とさない
運送業は法令遵守や安全管理が厳しく求められる業界です。
申請書類作成の際は、省力化投資補助金の目的に応じた事業計画と合わせて、法令遵守や安全対策についても記載しておくと信頼が得られます。
法令を遵守している工場で製造された品を選定した、試験や検査によって安全性が確立されているシステムを導入した、といった部分があれば書類へ記載しておきましょう。
まとめ|運送業のコスト構造改善に直結する投資で活用を
運送業における省力化投資補助金(一般型)の導入は、製造業などと比較すると活用範囲が狭くなります。
車両購入には活用できない制度ですが、コスト構造改善には直結している制度といえます。
燃料費や人件費の削減、労務・運行管理の効率化、オフィスのIT・DX化などの投資は、補助対象になる可能性が高い分野です。
ドライバーを含む人材不足やガソリン代の高騰による燃費対策など、自社の課題解決につながる設備やシステムを導入する際は、ぜひ補助金を活用してみてください。