【補助金支援者が考える】情報通信業者が新規事業進出補助を申請するコツとポイント
新事業進出補助金の申請を検討している情報通信業者の中には、「採択される可能性を少しでも高めたい」「どんな点に気をつければよいのか知りたい」と考える方も多いのではないでしょうか。
制度は始まったばかりで明確な傾向はまだ見えませんが、他の補助金申請の実務や業種特有の事例を踏まえると、押さえるべき基本ポイントや注意点が見えてきます。
本記事では、情報通信業者が申請する際に意識すべきコツや注意点を整理し、採択率を高めるための実務的な視点を解説します。
- 情報通信業が申請で意識すべき基本ポイント
- 他補助金の実務経験から見える申請のコツ
- 申請全体で注意すべきリスクや対応策
- 採択率を高めるためのまとめ視点
本記事を監修する専門家

多田 舞樹
東京大学 教養学部卒業。
PwC Advisory合同会社を経て、2018年に補助金コンサルティングや事業承継支援を手がける株式会社HighAdoptionを設立。これまでに500件を超える補助金の採択実績を持つ。
情報通信業(主にIT業)者が新事業進出補助金を申請する際に意識すべき基本ポイント
情報通信業者(IT業)が新事業進出補助金に挑む際は、自社の取組が「新事業進出」に該当するかどうかです。
これは情報通信業者に限らず、すべての業種に言えることでもあります。
既存プロダクトの機能追加や受託領域の小変更だけでは対象外となり、新市場や新顧客層への展開が鍵となります。
あわせて、補助対象経費の中心となる「機械装置・システム構築費」や「建物費」の位置づけを早期に設計し、混在させないよう、しっかりと経費明細を作りましょう。
IT業は小資本で着手できる反面、対象経費の要件解釈にブレが生じやすいため、要件・成果・スケジュール・体制をひとまとまりの計画として提示することが採択率向上に直結します。
「新事業進出の定義」に該当するかどうか
新事業進出の判定は「製品等の新規性」と「市場の新規性」の二軸です。
情報通信業(IT業)の場合、既存SaaSのマイナー機能追加や、同一市場内での価格帯変更は対象外です。
逆に、医療・製造・建設など別産業の業務課題に特化した業種特化型SaaSへの参入、既存受託から自社プロダクトへの転換、従来とは異なる顧客層を含くむニッチ市場への展開は「市場の新規性」を説明しやすくなります。
従来事業との違いは、顧客セグメント、提供価値、収益モデル、提供チャネルの差分で定量的に示しましょう。
外部データ(市場規模・成長率・規制動向)も根拠に、「なぜ今これをやるか」を語ることがIT業の強みを新規性に接続する近道となるでしょう。
中小企業等が行う、既存事業と異なる事業への前向きな挑戦であって、新市場・高付加価値事業
への進出を後押しすることで、中小企業等が企業規模の拡大・付加価値向上を通じた生産性向上
を図り、賃上げにつなげていくことを目的とします。
補助対象経費と対象外経費(システム構築費など)を区分する
情報通信業ではシステム開発費が中心となりますが、補助対象となるのは「新たなサービスや事業のためのシステム構築」に限定されます。
既存システムの運用費や通常の保守費用は対象外です。
例えば、新規分野進出に向けたクラウド基盤の構築や、AIを活用した分析システムの新規開発は補助対象となる可能性が高いです。
ライセンス更新や定常的なサーバー運用費は、対象外となるため注意が必要。
経費を誤って計上すると不採択になるため、事前に公募要領を確認し、対象経費と対象外経費を明確に区分することが求められます。
※参照元:6.補助対象経費 中小企業新事業進出促進補助金 公募要領(第2回)
他補助金の実務経験から見える申請のコツ【情報通信業編】
さきほども書いた通り、情報通信業やIT業が新事業進出補助金を申請する際も、「なぜ今この新規事業に取り組むのか」という必然性を語ることが重要です。
他の補助金申請では売上や効率化の数値が重視されることが多いですが、本補助金ではそれ以前に「新事業に挑戦する意義」の説明が不可欠です。
情報通信業では技術革新のスピードが速く、既存サービスとの差別化を示すことが難しい場合もあります。
そこで、政策動向や社会課題との関連を示し、なぜ自社が取り組むのかをストーリーとして説明できるかどうかが、採択率を高める鍵となります。
情報通信業者が新事業進出補助金を申請する際の注意点
情報通信業が申請する際には、制度要件を満たすだけでなく、実務上の注意点を意識することが重要です。
特に「補助対象外経費の計上」「資金繰りリスク」「外部支援者との契約条件」「システム構築費に関する提出資料」の4点は申請の成否を分ける要素となります。
補助対象外となりやすい経費に注意する
情報通信業の申請で誤りがちな経費は、既存システムの維持費やソフトウェアのライセンス更新費です。
これらは通常の業務経費と見なされ、補助対象外です。
新サービス構築や事業転換につながるシステム開発費用に限定して計上することが求められます。
大規模投資による資金繰りリスクを想定する
補助金は後払い方式であるため、採択されても事業開始時には立替資金が必要です。
情報通信業の新規事業は数百万円から数千万円規模のシステム構築費を伴う場合が多く、資金繰りを軽視すると途中で計画が頓挫するリスクがあります。
金融機関との連携や自己資金の確保を、申請段階から想定しておくことが大切です。
外部支援者との契約条件を事前に確認する
補助金申請を支援会社やコンサルタントに依頼するケースも増えています。
契約条件をあいまいにすると、成果報酬の負担や業務範囲の齟齬でトラブルにつながります。
情報通信業では事業の専門性が高いため、自社の状況に合った契約形態を選び、報酬体系や業務範囲を事前に明確化することが不可欠です。

100万円以上のシステム構築費を計上する場合の提出資料に注意する
情報通信業ではシステム構築費が大きな割合を占めるため、100万円以上の案件については見積書や設計仕様書などの追加資料が求められます。
これらがないと実績報告時に困るので、申請時には必ず確認しましょう。
必ず必要資料を揃え、透明性を確保することが大切です。
※7 100万円(税抜き)以上のシステム構築費を計上する場合は、実績報告時に、要件定義書(費用見積書を含む)または開発費用算出資料(作業単価、作業工数及び作業時間、固定費用、作業担当者、作業担当者勤務記録等)を提出する必要があります。
※引用元:6-1.補助対象経費の区分 機械装置・システム構築費(建物費といずれか必須)中小企業新事業進出促進補助金 公募要領(第2回)
まとめ|情報通信業が新事業進出補助金を成功させるために
新事業進出補助金を申請する際には、「新規性の説明」「補助対象経費の正しい整理」「資金繰り計画」「外部支援者との契約条件確認」が大きなポイントです。
特にシステム構築費の扱いはIT業ならではの注意点が多いため、申請準備の段階から徹底的に整理しておく必要があります。
自社だけでの対応に不安を感じる場合は、情報通信業者の補助金申請実績を持つ専門家や支援会社に相談することで、採択率を高められるでしょう。